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2013年5月12日 (日)

現代のインディージョーンズ(地球風第23回)

     ペルー(南米) 

 

 

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アンデス考古学の歴史、文明の歴史が、今、変わろうとしている。

 

20074月、アルバ博士はベンタロン遺跡を見つけた。C14で年代測定すると、約4500年前、最深部は5000年を超える結果が。

 

「地形、海産物、気候、そのどれもが揃っている場所、それが北中南米の中で、ランバジェーケだったのです」とアルバ博士が、北中南米最古の遺跡の理由を簡潔に説明してくれる。

 

今、アンデス考古学は、転換の時を迎えている。

 

まず、数年前にさかのぼり、女性考古学者シャーディー博士がカラル遺跡を見つけた時から、話は始まる。今まではアンデス考古学は、どう遡ってもチャビン時代の3000年前が最古とされていた。けれどカラル遺跡から出た有機物でカーボンフォーティーンをかけると、4800年前のものと判定。これで周囲はどよめき、中南米最古、ひょっとして人類最古の文明が新大陸から生まれたのでは?とざわめきたった。

 

カラル遺跡が出てから、ペルー中央海岸には、またひとつ、またひとつと4500年前から5000年前の遺跡が発見され、天野博物館事務局長、阪根博さんが発掘するシクラス遺跡もまた5000年前の神殿だ。

 

1つじゃなく、何個も、何個も出る古代遺跡に、アンデス文化の起源は中央海岸だろうということで話はまとまりつつあった。カラル遺跡やシクラス遺跡からは、土偶や動物の骨、シクラスと呼ばれる縄は出てくるが、土器や織物は皆無。掘っても壁や部屋は出てくるが、5000年前は無土器時代だったのだ。

 

アルバ博士が朝、ホテルまで迎えにきてくれ、ベンタロン遺跡へ連れていってくれる。

 

何と贅沢で至福の時間が始まろうとしているのか。ペルーで最も有名な考古学者・アルバ博士じきじきに遺跡を案内してもらえるのだから。

 

「南米は大きい。でもランバジェーケ周辺は、谷、海、山のバランスが良かった」

 

ぼそっ、ぼそっ、とアルバ博士は大切なことを話してくれる。今日も白い帽子に上は白いシャツ、下は白いズボンの白一色だった。遺跡はやっぱり暑い。その対策で、黒系よりも白系で統一しているのだろう。太い腕に、銀の時計、右手薬指には金の指輪がはめられていた。

 

チクラヨの町を9時に出発。

 

さっきまで曇っていた空は徐々に回復し、太陽光が射してきた。今日も暑くなりそうだ。

 

見晴らす限りのサトウキビ畑が、眼前に広がり、その間を縫うようにオフロードをゆく。

 

ガタン、ガタン、ピシシ。車が洗濯機のように、上下左右に揺れる。これも遺跡へ行くときの醍醐味だ。

 

「博士、あの岩はいつの時代の遺跡ですか?」

 

「あれは形成期」。ということは3000年前の遺跡だ。が、誰も掘り下げていないのだ。

 

ペルー北部は、右を見ても左を見ても、そんなピラミッド型の山がごろごろあった。そして礫岩の砂漠地に、ぐっとひと際そそり立った山、それがベンタロン遺跡だった。

 

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車を止め、外に出ると、湿度を含んだ暑さが体を包んだ。

 

アルバ博士が先頭を歩き、僕たちは後につく。発掘している人たちが、アルバ博士に頭をさげ、秘密の扉が開かれる。中へ入ると、まず出てきたのは4000年前の綺麗な階段跡と精巧な作りの城壁跡。

 

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この遺跡から海までは15キロほど離れている。スロープ状の階段を登ってゆくと、そこにはしっかり保存されたピントゥーラがあった。大きなアドベで作った壁に、赤と白の彩色がなされている。白と赤と言えば、ペルーの国旗の色だった。

 

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「これを基にペルーの国旗が作られたのかしら?」

 

「国旗じゃなくて、これは蛇なのです」とアルバ博士が言う。

 

そうだ、何といっても、壁画の描かれたのは少なくとも4000年前なのだから国旗な訳がないか。

 

アルバ博士が、赤白岩のすぐ後ろで、止まった。

 

「これが、チャカーナ型の建物です」

 

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足元には、見なれたチャカーナ(インカの十字架で思想観を表しているとも言われる)の形が。

 

「げっ、やべえな」と阪根さんが呟く。

 

「だってさ、これって4000年~4500年前の遺跡だろ。その文明がこんなものを作っていたなんて信じられないよ」

 

世界遺産になっているエチオピアのラリベラ遺跡を想い浮かべて欲しい。あれは十字型の祈りの神殿だけれど、このベンタロン遺跡にはインカの十字、チャカーナの神殿が発掘されようとしているのだ。チャカーナの起源はボリビアのチチカカ湖沿いのティワナク遺跡だと言われているが、あるか前の4000年~4500年前にもうチャカーナはあったのだ。

 

今現在発掘されている遺跡の中で、最古のチャカーナがこの遺跡から発見された。それも神殿の屋根がチャカーナ型なんて・・・・・。

 

「はじめに言葉ありき」。阪根さんが聖書の有名なフレーズを口ずさむ。

 

「これさ、ひょっとしたら初めからコンセプトがもうあったのかもしれないな」

 

まさに失われたアークが隠されているといわれるラリベラ教会のアンデス版なのだ。眼下にはサトウキビ畑と、アルガロボの林が、大地にはトカゲが勢いよく砂塵を巻き上げ走ってゆく。

 

そして最上階まで上がると、神殿の全貌が見える。

 

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中では2人の男性が土を運びだし、一人が記録の絵を描いていた。

 

「あれが、見つけたばかりの壁画です」

 

絵を見た瞬間、僕はのけぞってしまった。何とそこには、4000年~4500年前に書かれた見事な絵が精巧に描かれていたのだ。

 

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「ここからだと遠いから、近くで見てみましょう」

 

何と言ってもアルバ博士の案内だから、何処にでも入れてしまう快感を味わいながら、僕の心臓は高鳴った。

 

階段を下がり、神殿内部へ。そして絵の前まで来ると、右の壁に黒いススが見えた。

 

「あれが、フォゴンです」

 

フォゴンとは火を炊いた跡のこと。

 

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それも時代時代に場所を少しずつ変えて、三段のフォゴンになっていた。火をたき、神と繋がる。まさに拝火教(ゾロアスター)だ。

 

これはカラル遺跡にもシクラス遺跡にもある。昔の人は、無土器時代の人々は、神殿の一番大切な場所で、神に近い場所で火をたいていたのだ。

 

「この絵はドラゴンですか?」

 

「いや、鹿だよ」

 

「鹿ですか? 博士?」

 

博士が絵の前にたって、ここが目、ここが頭、ここが手足と教えてくれると、なるほど鹿のような模様が浮かびあがってきた。

 

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「ますます、やっべ」

 

「何かあるんですか、鹿って?」

 

「ここら辺りの王様は、みんな網を使って鹿狩りをしてるんだよ。鹿の後ろのあの模様は網だから、この時代にもう鹿狩りをしてたってこと。つまり昨日や今日で鹿狩りなんて文化は出来ないから、ここはもっと古い時代の神殿っていう可能性が高い」

 

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「この壁画は全部で7色使われています。インカの旗、タワンティンスーヨみたいに」

 

インカの旗は、虹色の旗が正規のものとされている。

 

「博士、もしかしたら、インカじゃなく」

 

「マリコンじゃないよ」

 

次の瞬間みんなで笑い合った。マリコンとはおかまのこと。おかまの旗も虹色なのだ。

 

黄色、赤色、茶色、ネズミ色、黒色、白色、オレンジ色、確かに壁画には7色使われていた。

 

好きな映画にインディージョーンズがあるが、まさにアルバ博士は生きるインディージョーンズだった。黄金のシパン王墓から大量の金を見つけ世間を驚かせたと思えば、今度は北中南アメリカ大陸最古の遺跡を発掘しているかもしれないのだから。

 

アルバ博士の丸い後ろ姿を見ながら、僕は想っていた。

 

「王墓にも、この古代遺跡も、アルバ博士は呼ばれているのだ」と。

 

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アルバ博士の許可をもらい特別に撮影させてもらい、最後に遺跡の展望台へ。

 

北にまたピラミッドのような山が聳えているから、あれも遺跡なのだろう。

 

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ペルーって、何て凄い国なのだろう。21世紀を迎えても、まだまだ新しい遺跡がどんどん出てくるこの厚みのある文化、そして自然。

 

「これくらいの王国が無かったら、やっぱり今の美味いペルー料理は生まれなかったんだろうな」

 

阪根さんの言葉に、僕は妙に納得し、アルバ博士にチクラヨまで送ってもらった。

 

「もうすぐセニョールシパンの末裔が来るから、ほらあそこだ」

 

現れたのはルイス。シパン王墓の脇に新しく出来たワカラハーダ博物館の館長だった。

 

アルバ博士とはここでお別れ。がっちりと握手を交わすと「これからも良い旅を」と優しい言葉をかけてもらった。

 

これからは、博士の片腕・ルイスことルーチョに、バトンが渡された。

 

『現代のインディージョーンズ』

 

僕はアルバ博士を見ながら、口に出して言ってみた。

 

ノムラテツヤ拝

 

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左から阪根博氏、ルーチョ、アルバ先生、自分

 

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ホンカデザインセンターPresents
写真家・野村哲也 スペシャルブログ

ホンカログハウスに居住したことのある筆者が地球の息吹を綴ってゆきます
プロフィール
Author: 野村哲也
1974年12月13日生まれ。
岐阜県岐阜市出身。
高校時代から山岳地帯や野生動物を撮り始め、“地球の息吹き”をテーマに、アラスカ、アンデス、南極などの辺境地に被写体を求める。
2007年より、南米のチリに移り住み、四季を通してパタゴニアの自然を撮影。写真はCMや新聞、雑誌などに数多く掲載されている。今までの渡航先は85ヶ国に及び、海外の辺境ツアーガイド、TV局やマスコミのアテンドにも携わる。国内では幼稚園から生涯学習センターまで、幅広い年齢層に講演活動を続けている。2011年より南アフリカ、ステレンボッシュに移住

著書
「パタゴニアを行く 世界でもっとも美しい大地」
「世界の四大花園を行く 砂漠が生み出す奇跡」
(共に中央公論新社)
写真集「PATAGONIA」
「ペンギンがくれた贈りもの」
(共に風媒社)
~たくさんのふしぎシリーズ~
「砂漠の花園」
「100年にいちど咲く花」
「僕のデナリ国立公園ガイド」
(共に福音館書店)など多数